• 「アルセーヌ・ルパンを知ってますか?」

モーリス・ルブランによる怪盗紳士アルセーヌ・ルパンシリーズを森田崇先生が極力忠実かつ発表順を尊重して描いてきた「怪盗ルパン伝 アバンチュリエ」がこの5月ついに単行本で「奇厳城」の完結まで到達しました。

「奇厳城」はルパンシリーズ中でも1、2を争うと言ってもいいであろう知名度を誇る傑作ですが、それだけに「これ一作」きりで読まれている傾向も大きい作品です。「アバンチュリエ」は開始当初から作品の発表順を重視し、「アルセーヌ・ルパンシリーズ」の作品ごとの連関を大きくクローズアップすることで、これまで日本のルパン・ファンにとってなじみの薄かった大河ドラマとしてのルパンという魅力をつかみ出して見せた、と言えるでしょう。

また、アバンチュリエにおいて特筆すべきことの一つに、大抵の邦訳では「ホームズ」とされている名探偵「ハーロック・ショームズ」の描き方があると言えるでしょう。邦訳においても解説などでは「原書ではエルロック・ショルメス」であると書かれてはいるものの、本編では(営業上の問題からか)ほぼ常に「ホームズ」となっている彼を、仏語読みのショルメスではなく英語読みのショームズとし、「ルパン対ホームズ」等単品で読む際見落とされがちなルパンとショームズの年齢差なども意識した上で「ルパン最大の宿敵」として立て、初登場の「遅かりしハーロック・ショームズ」から始まる二人の対決のドラマとして「奇厳城」を位置づけているのです。

  • ボートルレきゅんかわいいよボートルレきゅん(ぉ

「奇厳城」単独で言うならば、本作ではルパンと対置させるもう一人の主人公として、少年探偵イジドール・ボートルレを登場させ、基本的にボートルレ君に視点を据え、彼がルパンを追うというのが物語の基本的な構造となっていることで、この点もまた「奇厳城」が単独の作品として特に少年向けに愛されてきた理由でもあるでしょうか。
このアバンチュリエ版ボートルレ君がまた、実に可愛らしいとさえ言える美少年になっているのですが、感情豊かでありながらも鋭い推理力と行動力でルパンを追う姿はまぎれもなく古典的名作に新たな息吹きを与えるものでした。
そして、彼がついに「エギーユ・クルーズ」に到達したときの、今まさに自分が歴史の流れの先に立っているのだという高揚感と、カラーで描かれたその光景は漫画という表現形態ならではの魅力に満ち満ちていたと言えるでしょう。

  • レイモンド

最後に本作のヒロイン・レイモンド。アバンチュリエでは幾人ものヒロインが登場し、それぞれに小説で読んだときにも増して一人ひとりがかけがえのない個性を持った魅力的な存在として描かれてきましたが、レイモンドはまずその「美しさ」において連載が開始したときからひときわ飛び抜けた存在として描かれていたように思います。そのドラマチックな運命においてもルパン・シリーズのヒロイン中屈指の存在感を持つと言っていい彼女ですが、アバンチュリエにおいては、物語のクライマックスにおいて原作にはなかった「ある描写」があえて加えられています。しかし、この描写は決して恣意的なものではなく、キャラクターと物語から必然として出た者として充分受け容れられるものだと感じます。

ということでアバンチュリエは最高に面白いのでみんなでよもう。
現在次作「813」の準備でヒーローズの連載は休止中。奇厳城の後のさらなるルパンの冒険が待ち遠しい!!